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.
まるで赤ち
ゃ
んみたいだ、
こんな風に丸まっ
ているなんて。
由香利はそんなことを考えながら
、
自分の両膝を抱えてまどろ んでいた
。
あたりは真っ
黒で、
何も見えず、
プー
ルに潜っ
た時 のように
、
柔らかい何かに、
身体は優しく包まれていた。
ここは安全だと誰かが囁き
、
優しく頭をなでられた。
暖かな 手の感触を享受しながら
、
由香利は心から安堵した。
だけど、
もう二度とそうしてもらえないような感じがして
、
思わず由香 利は手を伸ばした
。
しかし、
暖かさに触れた瞬間、
消え失せた 「
─
─
ッ
!
」
狙いは強
《
あなが》
ち的外れではなかっ
たらしく、
相手がカ ッ
となっ
たらしき気配が、
初めて感じ取れた。
〈
この野郎、
そんなに死に急ぎたいかッ
!
!
〉
凶暴なテレパシ
ー
の“
大音声《
だいおんじょ
う》
”
が、
体全 体を乱打する勢いで浴びせられる
。
頼山紀博《
よりやま のり ひろ
》
は反射的に全方位防壁《
バリア》
を張っ
た。
その判断は 正しか
っ
たが、
相手の攻撃エネルギー
の方が、
防御エネルギー
を上回
っ
た。
衝撃で弾《
はじ》
き飛ばされ、
地面に叩き付けら れる
。
―
―
A
v
a
n
t
-
t
i
t
l
e
―
―
「
センター
!
!
行っ
たぞー
!
」
四月の青空に白球が打ち上が
っ
た。
「
余裕っ
!
」
センタ
ー
を守っ
ていた少年は、
空高く舞い上がっ
ている白球 を見上げてそう叫ぶ
。
そして、
空を一直線に裂くように伸びる 国の外れの小さな宿屋
、
二一五号室。
騎左は窓辺の椅子に腰 掛けて刀を磨いていた
。
決して高価ではない、
むしろどこにで も売
っ
ている安物の刀。
幼い頃に養父から貰っ
た物だ。
特別愛 着がある訳ではない
、
ただ手元にあるから使っ
ているだけ。
業 物があれば
、
と思っ
たことくらいあるが、
そんなものを買う金 は持
っ
ていない。
第一こんな刀だっ
てまだ使える。
いいものな んか使わなくても
、
切れ味というのは手入れと使う者の実力に よる
。
それが騎左の信条だっ
た。
ふと手を止めて
、
顔を上げた。
荒い息が聞こえる
。
自分のもの、
隣にいるエヴァ
のもの。
深 奈美は疲労で気が遠くなるような感覚に襲われた
。
エヴァ
は霊 子力のコントロ
ー
ルで普段隠している妖鬼の部分、
背中から生 えた天使の羽のような突起を露にしている
。
隠している余裕が 無いのだ
。
耳元では次
々
に現れる妖鬼の座標を読み上げるオペレー
ター
の井上翔子の声が悲鳴のようだ
。
だが、
あまり言葉が頭に入っ
てこない
。
二人の疲労は限界に達していた。
「
ラルフ、
そっ
ちはどう?
」
※
t
x
t
形式のためルビを削除。
「
クウロウ」
の「
クウ」
が 外字のため
、
本来は一字であるが「
骨古」
という二字で代用。
精確な表記は
p
d
f
版を参照。
はしがき
(
抜粋)
私はある友人から原稿の入
っ
た光学円盤を受け取っ
た。
本書 『
アリス症候群』
は彼の命を受け、
私が著者代理人兼編集者と して制作した書物である
。
私と同様の嗜好や美学を持つ彼は古くからの友人であり
、
慎 み深いというよりも人前に出ることを好まない性格の持ち主で